図書館から借りていた児童書「影の王」を読んだ
16世紀のシェークスピア存命中のグローブ座と
現代の新グローブ座とを少年がタイムスリップする話だ。影の王


タイムスリップというと
SFを思い浮かべる人も多いと思うが
英米児童書には「トムは真夜中の庭で」など
SFとはいいがたいタイムスリップ物がたくさんある。
自分の意志とは関係なく時間を旅してしまう(主に過去)のが
タイムマシンなどとは大きく違う点だろうか。


「影の王」の作者 スーザン=クーパーは『闇の戦い』シリーズ
いわゆるハイファンタジーと言われる作品と
いたずらなおばけボガードシリーズが日本では紹介されている。
自分は中学生の頃に闇の戦いシリーズに夢中になったことがあり、
今でもこのシリーズに流れる冷徹な雰囲気にはほれぼれする。
逆に、ボガードシリーズを読んだ時は
つまらないとまでは言わないが 同姓同名の別の作者なのでは?と疑いたくなるような
全く違う作風でがっかりした。


近年「影の王」が翻訳されると聞いて
「ボガードシリーズみたいにいまいちだったら・・・」と
二の足を踏んでいたのだが、
心配はいらなかった。
『闇の戦い』とはまた違うが
小説としては更に質の良い物に仕上がっていた。


少年が16世紀と現代のグローブ座で「真夏の夜の夢」の
妖精パックを演ずる という舞台設定だけでも
物語に入っていくには充分興味深い。
その上 登場人物の造形も良くできているし、
なによりも テーマがわかりやすく、明快に描かれているところが優れている点だろう。
「真の愛は変化しない 別れや死によってさえも」


『闇の戦い』でも主人公の少年少女たちのメンターとなる人物が
印象的だったが、
この作品でも 幾人かのキーとなる大人が非常に魅力的に描かれている。
特にシェークスピアは 好きにならずにいられない人物として
登場している。
シェークスピアを登場人物にしている小説や映画はいくつかみたが
自分が今まで見た中で一番すてきなシェークスピアだった。